2009.04.27 Mon
世界を映した全ての色も、目の前の碧には敵わない筈だと結構真剣に思う。
『遺言はXXX』
あーもう絶対死んだ。これは死んだ。
崩れるようにどさりと仰向けに寝転がり、噎せるような血の臭いを肌で感じる。
ひゅーひゅーと喉が鳴るのは認識できるけれど、体の感覚が微塵も無い。さっきまで立って歩いてた俺はまさにイリュージョンだと真剣に思う。
「…あ゛ー……」
喉を絞れば音が出た。随分と酷い。
おにーさんのハスキーボイスはかわいこちゃんに囁く為にあるんだぞコノヤロウ。思ったけれど嘲笑すら零れない。
え、何顔の筋肉壊れたかしら…おにーさんの造形美が崩れることほど世界の損失は無いと思うんだけど。どうせ死ぬなら綺麗なままで死にたい。
処女か。
「…ひっでえツラだな」
頭上から声が降ってくる。誰かは判らないが聞き覚えはある気がする。
何だよ近付いた気配も判らなかったのか俺相当駄目だな。
もやもやと霞がかかる脳が危険信号を送ってくるけれど、攻撃してこないから敵じゃない。と警戒体勢を解く。
ていうかこんな状態で警戒なんかしてたら疲れるだけだし。自分で納得。
「…何だ、声も出せねーのか」
うんそうなの。誰か判んないけど助けて。
思った瞬間顔に影がかかって、目の前に光る緑が現れる。
なんだお前かよ。体の力が一気に抜けたのを理解して苦笑が零れた。多分。
「…一瞬我慢しろ」
囁くように声が降ってきた。と同時に。
「ぐぁ……っぁああああ゛ぁ!!」
体が真っ二つに裂けたかと思った。
ズキズキどころじゃない脳全体をシャッフルされるような四肢を引き裂かれるような激痛。
強すぎる痛みは感覚を奪って、妙に冷静になった頭はまだ声が出たことに驚いていた。
ゆっくり影が離れていく。歪な革靴の音が妙に頭に響いたのを感じた。
「…おいヒゲ、立て」
謎の宣告。
言われてる意味が判らない。
「立てって言ってんだ」
ずるりと無造作に引き摺り上げられる。
俺の体を再起不能にしやがった眉毛の顔が正面に見えて、二、三言言葉の暴力を振るってやろうかと、思って。
はた。気付く。
あれ、俺立ってる?
「よぉ、お目覚めかよ眠りヒゲ」
完全に人間を想像させない言葉だ。いやしかし今はそんないつもの暴力紳士眉毛の悪態はどうでもよかった。
手を持ち上げてみる。流血。
足を動かしてみる。膝にへんな感触。
腹からは流血どころじゃない感じ。
これは即刻入院が必要ですね。医者じゃなくても絶対言う。
「……何したんだ?」
「何がだ」
「痛みがない」
流血の大惨事な自分だが、痛みは虫刺されほども感じない。
いぶかしげに目の前の『超』能力に目を遣れば、不敵にニヤリと笑われた。
「神経をちょっと弄っただけだ」
おまけにさらりと怖いことを言ってのけた。
「行くぞ、時間が無い」
「時間がって…ちょ、お前」
すっと歩き出そうとした肩を捕まえる。
何だよ、ひそめられた眉に痛みの色は無かった。…こいつ、自分でやったのか。
掴んだ手を離せば、べったりと粘ついた赤が存在を主張していた。
「…お前、俺より」
「うっせえなだから時間ねえっつってんだろ。一応止血はしてある」
言い捨ててから、アーサーはまた先に歩き出す。
しかし自分も長時間このままだとやばいのは確かだったので、アーサーの後ろ姿を早足で追いながら破れたシャツを脱いで腹にきつく巻き付ける。
止血になんのかは微妙。
「何処行くの?」
「合流地点だ。此処を出る」
「え、なに出るの?あのアホみたいな人数は、」
「ギルベルトが来た」
ちら、と緑がこちらを向いてから、また前に戻る。
俺の口からは呆けたようなあー…という音しか出なくて、ぽりぽりと頭を掻いて遣り過ごした。
「……アイツ、この短時間であっち側潰してきたわけ?」
「まぁ菊も居たしな。しかし結果オーライだ」
普段なら使わないような言葉使いでニヤリと笑う。まぁ確かにお前の好きなヒーロー野郎ならそう言っただろうけど。ぼやりと掠めた。
「ローデリヒの地図は」
「ちゃんと頭に入ってるよ?」
突入前に見せられた、何とも仰々しく綿密な内部図を頭で展開する。
自分がいる位置だけが判らないという何とも不可思議なあの貴族様が拵えるものは、いつだって怖いほど正確だった。
俺の返事を聞いて、アーサーは上々だというようにひとつ頷いてみせる。
「うん…覚え、あれ?」
「何だよ」
「いや…うん、おにーさんの記憶が正しければこの先って」
「合流地点への最短ルートだ」
うん最短。確かに最短ルートだ。
けどしかしだがこれはしかし。
「…何だろこれ、あれ、デジャヴ?」
「あん時より高くねえだろ」
ばたばたと強風で自分の長い髪が視界を覆う。うん出来るならこのまま何も見ていたくないです本当に。いや逆に危ないのは判っているけれど。
今回は超高層ビルではなく、とてつもなくバカでかい教会の時計台。の時計の針の先。からダイブする気らしい。
「…今日のお助け仮面の登場確率は?」
「アルは病院、アントーニョはその搬送、ルートヴィッヒは通信支援で菊はギルと共に交戦中。…残りの奴も聞くか?」
「フェルは美味い祝杯を準備中、ってか?あのお貴族様が来たらショック死するよ俺は」
俺もだ、と珍しく同調を返した紳士様は、本気で此処から飛び降りる気のようだ。まったく勘弁して欲しい。
「…オイヒゲ」
「なーに…遺言?やめてよ死ぬ前に告白とか」
「今言ったら洒落になんねえぞ…そうじゃなくて。あれ。見えるか?」
そう言ってくい、と白い顎が示した方向を見れば、庭園らしきものが地階に見える。ような気がする。
急かされて目を凝らせば、うっすらと白いオブジェのようなものが見えた。
「…なにあれ石像?」
「ホントにお前地図覚えたのか?噴水だろ。」
噴水。ああ確かに言われて見ればそんな感じかも。
周りが薄ぼんやりとしていてよく見えないのは、水が張ってあるせいらしい。
このやたらと豪奢な教会から鑑みるに、きっとあの白い物体(にしか見えない)にも豪華な装飾が施されているのだろう。
「…え、何盗むのあれ?」
「お前は馬鹿か?」
そこで素の突っ込みが来るとは思ってなかったなーお兄さん。ちょっと傷付いた。
何とも場違いな愚痴を心の内で溢せば、急にぐるりと緑が振り返った。え、何お前本物のエスパーだったのか。ぼやりと掠めて、
「アンカー、持ってんだろ」
ニヤリと笑った顔からは相当の性質が悪さが滲み出ていた。
「……坊っちゃん、マジックのタネ明かしはご法度だってご存知?」
「言ってる場合か。…いけるか?」
「さてねえ。やってみないと判らない、かな」
言って、左腕を持ち上げる。
感覚無し。
「………おいアーサー」
「無理そうか?」
「違う。…ちょっとこの神経戻してくんない?」
ね?と可愛く語尾を上げてお願いしてみる。と、もうなんかそれはそれは何と言うかこう……「ヒーローなんて居るわけないだろ」って言うアルを見るような表情だった。いや見たことないけど。
「…………本気か?」
「だって感覚無いんだもん。このままじゃ向こうまで届いたかどうかも判らない」
「……痛みで気絶するぞ。それと同時にお陀仏確定だ」
「お前を死なせはしない」
にこりと笑ってやれば、バカがと言われた。可愛くない。
平気そうな顔はしているが、出血量、体力、神経を弄っての経過時間どれをとっても危険極まりなかった。悩んでいる時間は無い。
「……フランシス」
「ん、だいじょーぶ。そんな顔しなくても大丈夫だから」
こく、と頷いたアーサーが触れるのと同時に、最後の望みを発射した。
※アンカー… なんかこう…フックみたいな錘です^^ここでは太めのワイヤーを装着してる感じ。
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何でも屋パロ 絵+漫画(米+日) 計5枚
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燕
性別:
女性
自己紹介:
日丸屋秀和様のサイト『キタユメ。』で連載されている、Axis powers『ヘタリア』をメインとしたファンブログです。
実際の国、原作者様、関係者様とは一切関係御座いません。管理人が勝手にハァハァ言ってるだけです。
絵を描いたり漫画描いたりしてます。
基本はギャグ。でも予告無く女性向けが頻繁に出没しますのでご注意をば。
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